大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和36年(ヨ)1230号 判決

申請人 鈴木正雄 外二名

被申請人 関西電 株式会社

主文

申請人等の本件仮処分申請はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は申請人等の負担とする。

事実

申請人ら代理人は「被申請人は申請人らを被申請人の従業員として取扱い、昭和三六年四月以降毎月末日限り、申請人鈴木に対し金一六、六三二円を、申請人松本に対し金一五、七二二円を、申請人遠藤に対し金一三、〇五一円を、各支払わねばならない。申請費用は被申請人の負担とする。」との判決を求め、その理由として、次のとおり陳述した。

第一、当事者関係

(一)  被申請会社(以下、単に会社ともいう)は発電並びに電力供給を業とし従業員二万数千名を有する株式会社であり、尼崎市に尼崎第一発電所(以下、尼一発電所という)、尼崎第二発電所(以下、尼二発電所という)及び尼崎東発電所(以下、尼東発電所という)を有している。

(二)  申請人鈴木は昭和二六年一二月三日尼二発電所に冬期渇水対策のため臨時人夫(以下、渇水夫という)として雇われ、昭和二七年四月三日常用人夫(以下、常用夫という)となり、爾来汽缶付属機器の点検、油差並びに重油ポンプの運転勤務、缶前の運転勤務、ドレッシャポンプ室勤務、ミル係を経て昭和三五年三月より缶前の運転補助要員(運転課所属)として本件解雇当時まで勤務し日給四五五円宛を毎月二〇日と翌月五日の二回に分けて支給されていた。

(三)  申請人松本は昭和二六年一二月五日尼二発電所に渇水夫として雇われ、昭和二八年四月常用夫となり昭和三〇年七月より汽缶課保修係勤務について本件解雇当時まで勤務し日給四五〇円宛を毎月二〇日と翌月五日の二回に分けて支給されていた。

(四)  申請人遠藤は昭和三二年九月二日尼東発電所に常用夫として雇われ、爾来汽缶室職場清掃、社員の作業補助員兼流灰夫の勤務、ミル係運転員としてのモーター及びドライアーの点検監視の勤務を経て昭和三三年八月より流灰職種として右運転員の勤務(運転課所属)について本件解雇当時まで勤務し日給三九五円宛を毎月二〇日と翌月五日の二回に分けて支給されていた。

(五)  なお、昭和三六年三月一日尼二発電所及び尼東発電所の常用夫約四〇名をもつて関西電力常用職員労働組合(以下、常用労組という)が結成されたが、申請人鈴木は其の執行委員長、申請人遠藤は副執行委員長に就任し、また常用労組は同年三月一九日その当時の組合員二二名をもつて総評尼崎合同労組に加入して右合同労組関西電力常用職員分会となつたが、申請人鈴木は其の分会長、申請人遠藤は副分会長、申請人松本はその執行委員に就任した。

第二、解雇

会社は昭和三六年三月二九日付内容証明郵便をもつて申請人らに対し、昭和三六年三月三一日をもつて直用人夫就業規則第三五条二号及び五号により解雇する旨の通知をなし、同年四月一日以降申請人らの就労を拒否し現在に至つている。

第三、解雇の無効

(一)  本件解雇は会社と関西電力労働組合(以下、関電労組という)との間の労働協約に違反し無効である。

(イ)  常用夫の雇傭契約上の地位

会社の従業員構成はこれを大別すると社員と直用人夫とに分たれ、直用人夫は更に常用夫とそれ以外の直用人夫に類別される。社員の雇傭契約には期間の定めがないが、常用夫以外の直用人夫は通常、臨時夫、季節夫又は渇水夫と呼ばれ、その都度必要に応じて比較的短期間雇傭される。これに対し常用夫の雇傭期間は一応形式的には定められているが(この期間は昭和三〇年頃までは原則として一年であつたがその以後は六ケ月となつた。)その名の示すとおり社員と同様に継続して雇傭されることが予定されており、事実、期間終了の都度自動的に契約が更新されてきた。このことは常用夫が景気の変動と関係なく常時会社業務に必要であることを示している。また昭和二四年以降会社は各発電所における社員数を出来るだけ押えようとする方針に基き現場用員については能う限り社員の採用を避け常用夫の採用が行われたものであるが(申請人ら三名はこの意味合いで採用されている。)、このような常用夫は従来の現場作業員たる社員と同様の意味合いにおいて採用されたものであるから其の採用基準手続についても右の社員との間に別段の差異はなかつた。次に常用夫は業務内容により、清掃(現場清掃を除く)、洗濯係、浴場係、自転車番、寮の管理、食堂賄、事務所雑役等の生産工程部門外の業務に従事する者と他方生産工程部門の業務に従事する者とに分けられる。右のうち生産工程部門の常用夫業務は広汎多様、かつ、相当の熟練技術を要し、社員業務と同一ないし社員との共同業務である場合が多く、また仮令、社員自体の業務と異り社員の補助業務であつても社員業務と直接且密接な関連があるのである。つまり、常に社員業務と密接不可分であり両者が相俟つて始めて電力生産工程が一貫して成立するのであり、相互にこれを切断することは業務遂行上不可能なのである。例へば申請人らについてこれを見れば申請人鈴木の解雇当時の業務内容はコールシュート突き、重油バーナーチップ洗滌、計量機後方清掃のほか、点火準備、点火チャート取替え、資料採集等を含むものであり、ボイラーの直接運転業務(メーター監視、操作)以外の作業は社員、常用夫の区別なく行われていたし、また申請人松本の当時の業務である保修業務(点検、修理)は社員と共同で行つていたものであり、また申請人遠藤が当時従事していた流灰職種は火力発電工程の不可欠の一部で流灰作業における支障は汽缶運転を不可能にする場合があるので担当常用夫は絶えず流灰装置ダクトの状態に注意し流水の調節、アッシュゲートの点検、ゼットポンプ係員との連絡等の責任があり、灰がダクトにつまつた場合等は社員の全面的な協力によつて灰出作業が実施されていたのである。

(ロ)  会社と関電労組との間の労働協約が生産工程部門の常用夫に適用されることは右協約自体から明らかである。

すなわち、労働協約第三条によれば、協約の適用除外者は〈1〉労働組合法第二条但書第一号の規定に該当するもの、〈2〉雇入後一箇月未満のもの、〈3〉試用期間中のもの、〈4〉建設工事のため臨時に雇入れられるもの(建設人夫)、〈5〉短期間を定めて雇入れられるもの(臨時夫、季節夫)、〈6〉その他、会社と組合が協議して定めたもの、であり、協約の「覚書」によれば〈6〉の会社と組合が協議して定めたもの、には「寮管理人その他であつて現に社員でないもの」が含まれるが、これについて関電労組の「解明」によれば「現に社員でないもの」とは、特定の業務に期間を定めて雇入れるもの及び特別の業務を必要期間委嘱するもの等であるとされている。右のうち後者は嘱託を指称するものと解されるが、生産工程部門の常用夫の業務が広汎、かつ、多様であつて「特定の業務」と云へないことは前記(イ)に示したところから明らかであるから右にいう「特定の業務に期間を定めて雇入れるもの」とは「覚書」の「寮の管理人その他」という表現によつてわかるように生産工程部門外の常用夫を指称するものというべきである。したがつて生産工程部門の常用夫は協約の適用除外者ではないといわなければならない。

(ハ)  仮に、右常用夫が協約第三条にいう協約の適用除外者であるとしても、労働組合法第一七条により右協約は右常用夫に適用される。

すなわち、社員と右常用夫の作業内容が同種であり、また雇傭の継続性についても実質上差異のないことは前記(イ)に述べたとおりであるから、申請人ら生産工程部門の常用夫は社員と「同種の労働者」である。したがつて社員に適用される右労働協約は右の常用夫にも適用される。

(ニ)  本件解雇は申請人らにも適用される労働協約第一〇条に違反する。

協約一〇条は第一項において解雇事由を制限列挙しているが、本件がそのうちの一号ないし七号に該当しないことは明らかである。八号に「その他会社と組合が協議して決定したとき」と挙示されているが、右は一号ないし七号の事由と同視しうべき事由の存する場合に会社と組合が協議して決定するとの意味であるところ、本件においては一号ないし七号と同視しうべき事由も会社と組合との解雇に関する協議も存しなかつた。

協約第一〇条第二項には「経営上やむをえない事由によつて従業員の解雇が必要であるときは、会社は解雇の人数及び基準についてあらかじめ組合と協議する」と定められている。しかし「経営上やむをえない事由」とは企業維持の必要上やむを得ない事業場閉鎖ないし人員整理等の場合を指称するのであり、本件のような常用夫業務の請負化という事由(この詳細は後述する。)は右の「経営上やむをえない事由」には当らないと解すべきである。本件にみられるように右の請負化が必ずしも合理的に実施されておらず、かつ、企業にとつて緊急不可欠であるとも到底いえない場合には尚更である。また、会社は本件解雇に際し「解雇の人数及び基準」について組合と何等の協議も経ていないところ、右協議条項が協約の規範的部分に属することは明らかである。

されば、本件解雇は労働協約第一〇条に違反し無効といわねばならない。

(二)  本件解雇は直用人夫就業規則の適用を誤つたものであるから無効である。

会社は申請人らに対し右規則第三五条第二号及び第五号により解雇する旨の通知をしてきたものであるが、右規則第三五条は「直用人夫が次の各号の一に該当する場合は退職させる」とし、その第二号として「契約期間が満了したとき」、第五号として「会社業務の都合によるとき」と規定している。ところで、常用夫の雇傭期間は一応形式的には定められているが継続雇傭が予定されており、したがつて事実、期間終了の都度自動的に契約が更新されてきたことは既述のとおりであり、このことはいわば慣行となつていたのであるから、かかる場合は期間の定めのない雇傭契約と同一に扱わねばならないから、右の第二号を適用することはできない。また、後述の如く生産工程部門に関する常用夫業務の請負化は後記請負化協定、職業安定法に夫々違反し、かつ、会社にとつてこれを実施すべき業務上の必要性は存しないのであるから、右請負化ということは「会社業務の都合」とはいえない。だから右請負化を理由とする解雇には右の第五号を適用することはできない。

(三)  本件解雇は不当労働行為(労働組合法第七条第一号、第三号)であるから無効である。

(イ)  常用労組結成の動き

常用夫の間では従前から劣悪な労働条件の改善を要求して再三、組合結成の動きがあつたが、その都度後記の如く会社の妨害により失敗に終つていた。

一方、電気産業労働組合で組織している全国電力労働組合連合会(以下、電労連という)では昭和三三年頃から関電労組を含む傘下各組合の執行部から「社員外従業員に関する専門委員会」を組織して常用夫問題を検討していたが、昭和三四年一月同委員会は電労連中央委員会に対し、〈1〉電気事業に従事するものは職種の如何に拘らずすべて社員とすべきである、〈2〉社員外従業員の労働条件を社員と同様のレベルに引き上げなければならない、〈3〉社員外従業員の制度確立と適用範囲を縮少してゆくことによつて身分と労働条件の向上を図る、〈4〉社員外従業員の組織化を図ること、等を答申し、さらに昭和三六年二月には右の諸事項につき一層の指導、促進をすべき旨が答申されたが、昭和三六年二月当時においては既に北海道電力、東京電力、北陸電力、中国電力、九州電力で常用夫を中心とする組合が組織され、四国電力でもその組織化が進められていた。

右のようなすう勢に呼応して関電労組でも常用夫の諸要求を取り上げ、昭和三四年五月の定期大会において常用夫の組織化を準備することを決議し、さらに同年一一月二五日に会社に対し月給制の確立、退職金制度の確立等を含む常用夫の要求一〇項目を提示し、次いで昭和三五年五月の定期大会で同年度中に常用夫の組合を結成し関電労組に統一することを決議し、その後関電労組としてはその準備が遅れていたが、同年末に至り、昭和三六年三月末までに常用労組結成準備委員会を構成することが決定された。

しかるところ、昭和三六年一月常用夫の間で、常用夫業務が請負化され関電興業株式会社(以下、関電興業という)に移管されるのではないかとの噂がされるに至り、これに対処するため特に尼二及び尼東発電所で常用労組結成の気運が高まり、常用夫らは関電労組本部、同地区本部の役員と懇談会をもち組合結成の一層の促進を要請する等の準備活動がなされ、同年三月一日に冒頭掲記の如く尼二及び尼東発電所の常用夫約四〇名をもつて常用労組が結成されたのである。

(ロ)  会社の常用労組結成阻止の方針――不当介入

会社は従前から常用夫の組合結成に対し終始これを抑圧する態度で一貫してきた。即ち、昭和三二年二月尼東発電所で同所勤務の約半数の常用夫により常用労組が結成され、総評尼崎合同労組に加盟し、合同労組の指導の下に賃上げ等の要求を掲げて団体交渉を行うや、会社はこれを嫌悪して関電労組尼東支部執行部や会社職制を動員して個々の組合員に対し脅迫をし、間もなく多数の組合員を脱退させて常用労組を解散に至らせた。

昭和三二年五月尼二発電所の常用夫らは、右の尼東発電所の失敗に鑑み、一挙に組合を結成することを避け、先づ親睦会の形式で発足することを企図し、親睦会を作つて教育宣伝を主とする活動を始めたところ、庶務課長が親睦会の責任者高橋某を呼びつけて親睦会の解散を要求したので、親睦会は約三ケ月で解散の止むなきに至つた。

昭和三三年三月頃、尼東発電所で関電労組尼東支部の協力の下に常用夫の組合結成の準備が進められていたところ、会社はこれを嫌悪して其の中心人物たる松尾某を些細な理由により解雇し、以て組合結成を不可能にした。

前記の如く昭和三六年一月頃から申請人ら常用夫の間で常用労組結成の気運が高まりそれが具体化したのであるが、会社は右常用労組結成の前後を通じこれに徹底的に抑圧介入を行つた。すなわち、会社は先づ昭和三六年二月一八日、常用夫には全く連絡なしに突然、関電労組本部役員に対し常用夫業務の請負化、これにともなう常用夫の関電興業への移行の提案をなし、二月二四日にも右の件につき会社と関電労組のみで交渉をなし、その間会社は職制を通じて常用夫に個別的に関電興業への移行を勧告し、三月一日常用労組結成を目的とする会合が開かれることを察知するや、同日の就業時間中である午後三時から五時までの間、各発電所で会社幹部から始めて右移行問題についての説明を行い同時に常用夫に対し移行に反対すると不利になるとの烈しい宣伝を行つて、尼一発電所の常用夫に対しては同日の組合結成大会への参加を阻止した。また、組合結成後、常用労組は常用夫の関電興業への移行に絶対反対を主張して会社に対し団体交渉を申入れたが、会社はすぐにはこれに応ぜず、漸く三月一三日開かれた第一回団体交渉の席上でも会社は常用労組の要求を拒否し、一方直接の当事者でない関電労組本部との間で常用夫の移行問題についての交渉を継続し、三月一六日の団体交渉により関電労組との間で、常用夫業務の請負化及びこれにともなう常用夫の関電興業への移行問題について、移行を前提とした取決めをしてしまつた。かくて会社は三月一八日常用労組を抜きにして常用夫全員に退職願用紙を手交して同月二二日までにこれを提出するよう命じ、しかもその間、職制を通じ個別的に退職勧告や組合脱退の勧誘をした。そのため組合が総評尼崎合同労組に加入した三月一九日には組合員数は当初の約四〇名から二二名に減少していた。三月二〇日に第二回の団体交渉がもたれたが、会社は関電労組との協定ができたことを理由に一歩も譲らず、同月二二日には会社側は関電興業への移行の対象となつている常用夫の家庭を個別訪問して退職願と組合脱退届とを集めて廻り、退職しなければ解雇し関電興業への就職斜旋もしないという強迫によつて申請人ら以外の大多数の常用夫から退職願を提出させた。次いで同月二七日第三回目の団体交渉が行われたが、その際は会社の申請人らに対する解雇方針が確立していたので、申請人ら退職願を提出しなかつた三名が、これを提出した他の組合員のために関電興業での労働条件につき交渉をなしえたのみであつた。

(ハ)  本件解雇が不当労働行為であること

以上記述した(イ)(ロ)の事実及び元来、常用夫業務と社員業務とは明確に区別されておらず共同的に実施され不可分の関係にあるから常用夫業務を切離して請負化することには業務上の必要性も合理性も存しないこと並びに後記の如く右請負化が職業安定法違反を構成し、しかも具体的には会社と関電労組との間の右請負化に関する協定にも違反するにも拘らず、常用労組の結成並びに常用夫の社員化要求が具体的な日程に上がつて後の段階において極く短期間に、常用夫の反対を押切つて強行されたこと等から見れば、会社が常用夫の組織化並びにこれによつて常用夫の社員化の要求が具体化する事態を恐れ、これに先だつて組織化を不可能にするために、すなわち、常用夫の組合結成に不当に支配介入する意図のもとに常用夫業務の請負化及びこれにともなう常用夫の関電興業への移行を提案し、したがつて常用労組結成の後は右意図の継続として組合を破壊すべくこれを強行実施したものといわねばならない。そして、右常用労組並びにその加入した総評尼崎合同労組の関西電力常用職員分会の役員となつた申請人ら三名が最後まで会社の右提案、実施に反対して関電興業への移行を肯んぜず、退職願の提出を拒んだところ、会社が申請人らを解雇したのが本件解雇であるから、会社は前記一連の不当労働行為意図のもとに申請人らの正当な組合活動を排除すべく右解雇をしたものというべきである。それゆえ、本件解雇は無効である。

(四)  本件解雇は解雇権の濫用であるから無効である。

(イ)  請負化協定違反

既述の如く、常用夫業務の請負化、これにともなう常用夫の関電興業への移行問題につき昭和三六年三月一六日に会社と関電労組本部との間に協定ができたのであるが、右協定では請負化の範囲につき「計器補助、大工補助、熔接補助、鳶補助の四職種以外で社員の直接的補助業務に従事しその指揮命令に従うもの以外の常用夫全員を移行させる。右の範囲につき具体的には下部(各発電所と関電労組支部)で協議する。」旨定められた。しかし、請負化の実際は右協定の内容と著しく相異し、右協定によれば請負化から除外されるべき業務が公然と請負化されており、このことは特に尼二発電所において著しい。すなわち、右協定によれば請負化の対象から除外されている四職種に従事する者の多くが関電興業へ移行させられたし(例えば、尼二発電所の鳶職の和田義一、田中力、計測職の立田希太郎の如し。)、また尼二発電所の常用夫三八名中、移行の対象となつた二六名のうちには、申請人鈴木と同様に缶前の運転補助要員の業務に従事していたものが一二名もいるが、彼等は明らかに「社員の直接的補助業務に従事しその指揮命令に従つていたもの」に外ならないのである。そして右の一二名のうち申請人鈴木を除き関電興業へ移行した一一名の業務は移行後も移行前と同様にコールシュート突き、バーナーチップ掃除、点火準備、資料採取等、直接に社員の指揮命令をうけて其の直接的補助業務を行つている有様である。右の如く、会社は請負化を具体的に実施するに際して前記協定を無視してこれを行つた。これは関電労組に対する関係では協定違反であり、申請人ら常用夫に対しては著しい不信行為であるといわねばならない。

(ロ)  職業安定法違反

職業安定法第四四条は労働者供給事業を禁じ、同法施行規則第四条は右にいう労働者供給事業の内容を明定している。すなわち同条によれば、請負契約にもとずく場合にも労働者供給事業でないためには、〈1〉作業の完成について事業主としての財政上及び法律上のすべての責任を負うものであること、〈2〉作業に従事する労働者を指揮監督するものであること、〈3〉作業に従事する労働者に対し使用者として法律に規定されたすべての義務を負うものであること、〈4〉自ら提供する機械、設備、器材(業務上必要なる簡易な工具を除く)若くはその作業に必要な材料資材を使用しまたは企画もしくは専門的な技術もしくは専門的な経験を必要とする作業を行うものであつて単に肉体的な労働力を提供するものでないことが必要であるとされている。そして右の〈2〉にいう「労働者を指揮監督する」とは、自己の責任において作業上及び身分上直接指揮監督することであり注文者が自ら作業に従事する労働者にたいする指揮監督を加えることは許されないとの意であるし、〈4〉号にいう「業務上必要なる簡単な工具」とは、機械器具の中主として個々の労働者の労働力が主体となりその補助的な役割を果すものであつて、たとへば、のみ、かんな、シャベル等の如く通常個々の労働者が所持携行しうる程度のものの意である。

しかるところ、本件請負化後の請負業務の実施態様は右の〈2〉号及び〈4〉号に違反している。〈2〉号について云えば、たとへば請負化されて関電興業へ移行された尼二発電所の缶前運転補助要員の業務(コールシュート突き作業等)は既述の如く従前から社員の直接的指揮監督に従つて行われていたのが移行後も事実上は依然として、関電興業ではなくて彼申請会社の社員の直接的指揮監督下に実施されているのであつてその態様に変化はないのである。このことは、既述の如く社員業務と常用夫業務とが元来、不可分の関係にあつて切り離し得ないものであることを如実に示すものでもある。また、「尼崎東発電所内各種清掃灰出しその他雑工事仕様書」(甲第一九号証)によれば、尼東発電所においても請負化された業務のうち生産工程部門の業務は依然社員の指揮監督のもとに実施されるべきことが要求されているのである。次いで〈4〉号についてみると、本件請負化された業務の実施にあつては移行後も依然として被申請会社所有の器具類が使用されており移行前と変りがないのである。

右のとおり、本件請負移行業務が職業安定法施行規則第四条、〈2〉、〈4〉号の各要件を欠くことは明らかであり、したがつて関電興業は同法の禁止する労働者供給事業を行うものといわねばならないから、会社は同法に違反して本件請負化を実施したものと断ぜざるを得ない。それゆえ、これの実施に協力しなかつた申請人らをそのことの故に解雇することは法的に保護さるべき正当な理由をもたない。

(ハ)  本件請負化の業務上の不合理性

元来、社員業務と生産工程部門の常用夫業務とが密接不可分の関係にあつて切離しえない性質のものであり、さればこそ右の常用夫業務が請負化され常用夫が関電興業へ移行されて関電興業の従業員となつた後も、右常用夫らの大部分の者の業務の実体は従前と変化はなく従前どおり被申請会社の器具類を使用し事実上被申請会社社員の指揮監督をうけて従前と同一内容の仕事に従事していることは既述のとおりである。右が請負業務の実体である。そして請負化のため雑役の仕事が社員に負荷される等或る面で総体的には社員の業務量が増大し、また右のように請負業務(これが社員の直接的補助業務の性質を有することは前述のとおり。)は事実上は従前どおり社員が指揮監督しているとはいえ、従前の常用夫は身分上は関電興業に所属するに至つたため性質上社員の直接的補助業務たるべきものが立前上は直接指揮監督権の及ばない者によつて行われるという変体のため、作業上円滑を欠く面も現われている。右のように会社にとつて本件請負化はこれを実施しなければならない業務上の必要性が存しないのみならず、却つてこれを不都合とする事情が存するのである。

一方、常用夫にとつても本件請負化は不利益である。すなわち、移行せしめられた常用夫らの新使用者である関電興業は被申請会社の数多い下請会社の一にすぎず、その業態、同業者間の競争の激化等から考えて、企業自体不安定といわねばならず、したがつて彼等の従業員としての地位も不安定となつたことはいうまでもない。また、彼等に適用される関電興業の「作業員就業規則」によると、解雇事由、時間外並びに休日勤務の要件、有給休暇請求の要件、休日日数等に関し、被申請会社当時の労働条件よりもきびしくなり不利益になつている。

右のように、本件請負化は会社にとつても業務上の必要性はなく常用夫には多大の不利益を与えるものであるから合理性を欠くものといわねばならない。それゆえ、右請負化のため申請人らに退職を強要することは全く正当性を欠くものであり、したがつて退職勧告に応じなかつたからとてこれを理由に解雇することは許されない。

以上(イ)(ロ)(ハ)の諸点に徴し、本件解雇は解雇権の濫用であり、したがつて解雇の効力を生じないものといわねばならない。

第四、申請人らの賃金

(一)  申請人鈴木は本件解雇当時、日給四五五円を支給されていたが、これの一ケ月の平均額を算定すると次のようになる。昭和三五年度の賃金総額は金二〇二、五三五円、昭和三六年一月から三月までの賃金総額は金四六、九五二円であるから右合計額(一五ケ月分)の一五分の一である金一六、六三二円が賃金の一ケ月平均額である。

(二)  申請人松本は本件解雇当時、日給四五〇円を支給されていたが、これの一ケ月の平均額を算定すると次のようになる。昭和三四年度の賃金総額は金一八八、〇六〇円であるところ、同人の賃金は日給にして三〇円だけ昭和三五年五月以降増額しているから昭和三五年度の賃金総額の推定額は金一八八、〇六〇円に金九、〇〇〇円(三〇×二五×一二)を加算した金一九七、〇六〇円であり、昭和三六年一月から三月までの賃金総額は金三八、七二八円であるから右合計額(昭和三五、六年の一五ケ月分)の一五分の一である金一五、七二二円が賃金の一ケ月の平均額である。

(三)  申請人遠藤は解雇当時、日給三九五円を支給されていたが、これの一ケ月平均額を算定すると次のようになる。昭和三四年度の賃金総額は金一四七、六一二円であるところ、右(二)と同様の理由により昭和三五年度の賃金総額の推定額は右金額に金九、〇〇〇円を加算した金一五六、六一二円であるから、この一二分の一である金一三、〇五一円が賃金の一ケ月の平均額である。

それゆえ、昭和三六年四月以降も月額平均して、申請人鈴木は金一六、六三二円、同松本は金一五、七二二円、同遠藤は金一三、〇五一円の賃金債権を有する筋合である。

第五、仮処分の必要性

以上のように本件解雇は無効であるから申請人らはいずれも従業員たる地位を有するにも拘らず、会社は解雇が有効であるとして申請人らの就労を拒否し、かつ、賃金の支払をしないものであるところ、申請人らはいずれも労働者で賃金を唯一の生活の資としているため本件解雇により収入の道を絶たれ、自己並に家族の生活に重大な損害をこうむりつつあり本案判決の確定を待つていては回復しがたい損害を蒙るに至るので本件処分申請に及ぶ。

被申請代理人らは主文同旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

申請人ら主張の「第一当事者関係」の事実のうち、

(一)の事実は認める。

(二)の事実のうち、申請人鈴木が昭和二六年一二月尼二発電所に渇水夫として雇われ、次いで昭和二七年四月三日常用夫として雇われ、本件退職当時日給として四五五円支給されていたことは認める。同人が本件退職当時に従事していた主たる業務はコールシュート突き作業、重油バーナーチップ洗滌作業及び石炭計量機後方清掃作業であつた。

(三)の事実のうち、申請人松本が昭和二六年一二月五日尼二発電所に渇水夫として雇われ、その後常用夫として雇われ本件退職当時日給として四五〇円支給されていたことは認める。しかし同人が常用夫として雇われたのは昭和二九年四月一日であり、同人が退職当時従事していた主たる業務は汽缶補機関係の修理補助作業であつた。

(四)の事実のうち、申請人遠藤が昭和三二年九月二日尼東発電所に常用夫として雇われ、本件退職当時日給として三九五円支給されていたことは認める。同人が退職当時に従事していた主たる業務は灰出作業であつた。

(五)の事実は認める。

申請人ら主張の「第二、解雇」と題する事実のうち、会社が申請人らに対し主張の日付の内容証明郵便を発したことは認めるが、右は契約の更新拒絶の通知である。

申請人らの「本件解雇が労働協約に違反し無効である」旨の主張について。

(イ)  常用夫の雇傭契約上の地位

会社の従業員は社員、試雇、教習生、医務嘱託、嘱託、直用人夫に種別され、直用人夫は更に常用夫、臨時人夫、建設人夫に類別される。そして常用夫の雇傭契約上の地位は社員のそれと比較すると種々の点で異る。すなわち、常用夫は特定の職種を明らかにし六ケ月以内の期間を定めて比較的簡単な手続で必要に応じて其の都度、しかも、下部機関でその雇傭の採否が決定されるものであるに反し、社員は事務系、技術系に分け厳格な選考方法により定期的に採用され、かつ、期間の定めなく雇傭される(但し、満五五才を以て停年とする。)ものである。常用夫を六カ月以内の期間を定めて雇傭することとしている趣旨は常用夫に従事させる業務が、社会情勢の変化、組織機構の変更、業務処理方法の変更等によりその業務量に変動が多く、直営業務としての恒常性が比較的少ないため同一人を引続き雇傭する必要のないことに基くものであり、したがつて契約期間の満了に際しては会社は業務量、業務処理方法等を検討し、再雇傭する業務上の必要があり、かつ、本人が希望する場合に始めて再雇傭しその都度、職種、雇傭期間、労働条件を明記した誓約書を提出させているものであつて、申請人ら主張のように自動的に契約が更新されてきたものではない。また常用夫の賃金は日給制であるに反し社員は月給制であり、賞与の支給率も異る。さらに、業務内容から見ても、社員は発電、送電、変電、配電等直接電気供給に関連する本来業務を行うものであるが、常用夫は電気事業の運営面から見て附随的な雑役的作業ないし社員の補助業務に従事しているものである。これを申請人らが従事していた業務について見ても、申請人鈴木の主たる業務であつたコールシュート突き作業、重油バーナーチップ洗滌作業及び石炭計量機後方清掃作業が、社員の従事している汽缶及び補機関係機器の操作、監視、記録、巡回、点検等の機缶運転業務に比べればその附随的、雑役的作業であることは明らかである、申請人松本の主たる業務であつた汽缶補機関係の修理補助作業が、社員の従事している各種火力発電設備の点検業務や改良修繕工事の計画、設計、準備、立会検収、検査等の業務と比較して附随的、雑役的作業であることは明白であり、申請人松本の従事していた右作業は手持ち資材があり、かつ、短時間で修理できる場合等に行われるもので、社員の従事する作業とはその処理範囲、処理方法及び責任が異るのである。また申請人遠藤の従事していた主たる業務である灰出作業が附随的、雑役的作業であることは明らかであり、この作業に社員が従事したようなことはない。申請人らの主たる業務は右のとおりであり、仮に申請人らが社員と共に業務処理に当る場合があつたとしても、その処理範囲、処理方法が異り、その業務責任は社員のそれとは全く異るから、これをもつて社員業務そのものに従事していたとはいえない。

右のように申請人ら常用夫は期間を定めて雇われるものであり、これら期間の定めのある契約は期間満了の際契約の更新がなされてきたが契約更新があつたからといつて期間の定めのない契約となることはあり得ず、あくまでも期間の定めのある契約としての性質が存続される。申請人鈴木、同遠藤の六カ月の雇傭期間は昭和三六年二月末、申請人松本の期間は同年三月末で満了することになつていたところ、常用夫業務の請負化実施の目途が同年四月一日となつていた関係上、申請人鈴木、同遠藤については同年二月末で契約期間が満了した際に特に契約期間を一カ月(従つて同年三月末まで)とする再雇傭契約を締結したため、申請人等三名共同年三月末をもつて雇傭期間が満了したのである。そして会社は常用夫業務の請負化実施のため申請人らと再雇傭契約を締結しなかつたのである。したがつて会社と申請人らとの雇傭関係は同年三月末日を以て期間満了により消滅したものであり、申請人らのいうように雇傭契約の解除ないしは解約告知の意味での「解雇」により消滅したものではない。それゆえ、解雇に関する定めである労働協約一〇条が本件に適用されないことは明らかである。

(ロ)  労働協約の適用除外

労働協約三条、協約の「覚書」、関電労組の「解明」に夫々申請人ら主張のような規定ないし文言のあることは認める。しかし、協約三条六号、「覚書」第三項(イ)をうけた「解明」(労働協約の解明に関する覚書であつて労働協約たる性質を有するものである)では「特定の業務に期間を定めて雇入れる者」と定めて常用夫は協約の適用除外者であることを確定しているのである。

(ハ)  労働協約の一般的拘束力

(1)申請人らが退職当時、尼二発電所所属全従業員中、社員は四八五名、常用夫は三八名であり、申請人鈴木の所属していた運転課では社員が二七三名に対し常用夫は一五名、申請人松本の所属していた保修課では社員が一一七名に対し常用夫は一〇名、尼東発電所所属全従業員中社員は二四三名、常用夫は二三名であり、申請人遠藤の所属していた運転課では社員が一九四名に対し常用夫は一五名であつた。このように人員の点から見ても火力発電所における運転、保修業務は、その殆んどが社員によつて運営されているのであり、常用夫は既述の如く特定の附随的、雑役的業務に従事していたに過ぎない。これを申請人鈴木の例にみても、同人の業務である重油バーナーチップ洗滌作業や石炭計量機後方清掃作業が直接運転業務に関係のないことは明白であり、コールシュート突き作業にしても一度要領を修得すればいちいち社員の指示をうける必要がなく、また汽缶運転業務に関連する作業ではあるがそれは飽くまで附随的、臨時的に行われる作業にすぎないのである。(2)さらに常用夫は前記の如く採用手続、契約期間、賃金体系等においても社員と異るほか、(3)社員に適用されるものとは全く異る独自の「直用人夫就業規則」が適用され、かつ、(4)社員によつて組織される関電労組と会社との間の労働協約でも前記の如く常用夫はその適用除外者とされているのであるから、これらの諸点から見ても常用夫が社員と「同種の労働者」でないことは明らかである。したがつて労働組合法一七条(労働協約の一般的拘束力)の適用の余地はない。

(ニ)  労働協約一〇条について

協約一〇条八号、二項に申請人ら主張のような定めのあることは認める。しかし、申請人らの雇傭関係の消滅は期間満了を事由とするものであつて解雇によるものでないから解雇に関する右条項がもともと適用の余地のないものであることは前記のとおりである。また、右条項は会社と関電労組との間の債権債務関係を規定した所謂労働協約の債務的部分であつて、規範的部分ではないから、かりに労働協約自体は労働組合法一七条により申請人らに拘束力を及すと仮定しても、右の部分が申請人らに拡張適用される余地はない。

(ホ)  以上の如く、いずれの観点から見ても労働協約一〇条は本件退職につき適用のない規定であるといわねばならないが、仮に右条項が本件退職につき適用されるものとしても、後記の如く常用夫業務の請負化は業務上の必要に基くものであり、かつ、関電労組と充分話合つたうえ意見の一致をみているものであるから、この事実は右条項にいう「組合と協議」義務をつくしたものと評価されねばならない。

申請人らの「本件解雇は直用人夫就業規則の適用を誤つた」旨の主張について。

直用人夫就業規則三五条二号、五号に申請人ら主張の如き定めのあることは認める。しかし、前記の如く申請人らの雇傭契約は期間の定めのある契約であり、いずれも契約期間は昭和三六年三月末日を以て満了したのであるから、右二号の退職事由に該当することは明らかである。のみならず、後記の如く業務運営の合理化、従業員管理の適正化等経営全般にわたる合理化施策の一環として実施した常用夫業務の請負化のため関係常用夫等は円満に関電興業へ移行したのに申請人ら三名は右請負化に反対し右移行を拒否したのであるところ、昭和三六年四月一日以降は右請負化実施のため従前申請人らの従事していた業務が会社の業務範囲外となつたのであるから、右の事由は右五号の退職事由に該当する。それゆえ会社は右の二号、五号により同年三月三一日限りで申請人らを退職せしめたものであるから就業規則の適用に誤りはない。

申請人らの「本件解雇が不当労働行為である」旨の主張について。

(イ)  常用労組結成の動き。この標題下に申請人らの主張する事実のうち、昭和三四年一一月二五日関電労組から会社に対し常用夫の労働条件の改訂について月給制の確立、退職金制度の確立等を含む要求(九項目である)の提示があつたこと及び昭和三六年三月一日常用労組が結成されたことは認めるが、その余の事実は知らない、右九項目の要求があつてから会社は関電労組と話合いを続け昭和三五年六月一五日に日給を平均三〇円増額することで一応解決を見たのである。

(ロ)  会社の常用労組結成阻止の方針なる標題下に申請人らの主張する事実のうち、

昭和三二年二月尼東発電所勤務の常用夫の一部が総評尼崎合同労組尼東発電所分会を結成して賃上げ等を要求して会社と団体交渉を持つたこと、会社が尼東発電所勤務の常用夫である松尾千代祝を退職させたこと(但し、その日時は昭和三四年二月二〇日である)、会社が常用夫業務の一部請負化問題について昭和三六年二月一八日関電労組と話合いを始め、同年二月二四日にも右交渉を続行し、三月一日に関電労組の関係各支部や関係常用夫に対し請負化問題につき説明を行つたこと、常用労組から団体交渉の申入がありこれに対し会社(兵庫火力事務所)が常用夫業務の移行問題について同年三月一三日、二〇日、二七日の三回にわたり団体交渉をしたことはこれを認めるが、その余の事実は否認する。

前記の如く昭和三二年に結成された総評尼崎合同労組尼東発電所分会とは同年二月二〇日に団体交渉をもつたが、会社は昇給はすでに同年二月一日実施済であり他の要求には応ぜられない理由を詳しく説明したところ、その後同年五月一四日同分会から右合同労組から脱会して解散した旨の通知を受けたものである。また、会社が松尾千代祝を退職させたのは同人が昭和三四年二月一九日些細なことで同僚の北村末吉に暴行を加えて傷害を与えたためである。さらに、前記の如く関電労組から常用夫の労働条件の改訂に関する九項目の要求がありこれは昭和三五年六月一五日日給増額により一応解決したのであるが、一方会社は各般にわたる経営の合理化、業務運営の近代化の一環として常用夫業務の基本的なあり方について種々検討の結果、昭和三五年二月完成の大阪火力発電所において実施した常用夫業務の一部請負化の実績も徴して業務の性質、集団性、その他を考慮し、全社的に常用夫業務の一部を請負化することが合理的であるとの結論に達し、昭和三五年四月三〇日差当り大阪発電所以外の火力発電所全部について常用夫業務を請負化するとの基本方針を定め、右基本方針に従つて常用夫業務の一部請負化実施について種々準備を重ねたところ、漸く昭和三六年四月一日以降実施の目途がついたので、同年二月一八日従来から常用夫の利益を事実上代弁してきた関電労組に対し、請負業者を関電興業とする、請負の対象となる業務に従事する常用夫は円満に退職してもらい希望者は関電興業に就職を世話する、等々の事項を内容とする請負化に関する具体的提案を行い、同年二月二四日、三月一四日、話合いを続けた結果同年三月一六日意見の一致を見た。一方、会社は昭和三六年三月一日兵庫火力事務所及び尼一、尼二、尼東各発電所において請負対象業務に従事する常用夫と懇談会を開き、その趣旨、事情を十分説明する等請負化の円滑な実施について留意の上、同年三月一八日から二〇日までの間大阪火力事務所及び兵庫火力事務所管内の請負化対象常用夫一二六名に対して円満退職、並に関電興業への就職希望の意思の有無を徴した結果、同年三月二二日までに一二六名中一二一名は円満退職及び関電興業への就職を申出たので同年三月二七日から二九日までの間に関電興業への就職手続を終え、二名は円満退職を申出たので各々の手続を了し、申請人ら三名だけが円満退職を拒否した。さらに、会社は常用労組との間では前記の如く、同年三月一三日、二〇日、二七日の三回にわたり団体交渉をして、組合側の意見を十分聴取すると共に質疑には誠意をもつて応答する一方、会社の方針並に趣旨を詳しく説明し請負化対象業務に従事する常用夫の身の振り方についての会社の充分な配慮を説明した結果、三月二七日の団体交渉においては組合側の要求はすべて請負化を前提とした上での、関電興業へ移行する者及び会社に残留する者の労働条件の向上についての諸要求がなされた状況であつた。

(ハ)  本件解雇は不当労働行為ではない。

会社がその業務処理を如何なる形態、方法で実施するかは、本来経営権に属するものであり、殊にその営む電気事業の公益的性格から常に経営の合理化、業務運営の近代化が強く要請されるところ、本件の常用夫業務の一部請負化は右合理化施策の一環としてなしたものであり、かつ、後記の如く具体的に見ても業務上の合理性を有するものであるし、また、申請人らの主張するようにこれが職業安定法違反を構成したり、関電労組との間の協定に違反して実施されたりしたものではない。さらに、本件請負化の経緯は既述の如く申請人らによる常用労組の結成とは全く無関係のものであり、むしろ申請人らによる常用労組の結成は本件請負化問題が利害関係者に周知の事実となつた後になされたものであることは申請人らの自認するところであるし、また前記の如く会社は請負化の実施については関電労組、常用労組と夫々団体交渉を持ち、かつ、関係常用夫には趣旨を詳しく説明し、関係常用夫の立場を十分考慮し、関電興業への就業の斡旋をなし、その間関係常用夫が常用労組の組合員であるか否かによつて差別的扱いをしたこともない。ただ、関係常用夫のうち申請人ら三名だけが、本件請負化に反対し円満退職を拒否したため申請人らの従前の業務が請負化の結果会社の業務範囲外になつたので止むなく退職手続をとつたのである。右の如くであるから、会社が常用労組の結成運営に不当に介入するために本件請負化を実施したり、また申請人らの組合活動を排除するために申請人らを退職させたりしたものでは決してない。

申請人らの「解雇権の濫用」の主張について。

(イ)  請負化協定について。

昭和三六年三月一六日会社と関電労組本部との間で本件請負化につき意見の一致を見たことは既述のとおりであるが、右一致した事項中、請負化の範囲については「社員の直接的補助業務に従事し、その指揮命令に従う場合を除く」ということに定まり、その除外される具体的範囲については、それぞれ下部機関で協議決定することとされたので、同年三月一八日以降、関係各火力発電所とそれに対応する関電労組各支部との間で協議がなされた。その結果尼二発電所と関電労組尼二支部とは同年三月二九日に、申請人鈴木及び松本を含む常用夫二六名が請負化対象業務に従事しており、かつ、それらの者の業務の中で本件請負化の対象となつた作業に関しては「社員の直接的補助業務に従事し、その指揮命令に従う場合」はないということで完全に意見の一致を見たし、また尼東発電所と関電労組尼東支部とでも右同日、申請人遠藤を含む常用夫一九名が右同様、除外される場合に当らないということで完全に意見の一致を見たのである。事実、申請人らの従事していた作業(コールシュート突き作業、重油バーナーチップ洗滌作業、石炭計量機後方清掃作業、汽缶補機関係の修理補助作業、灰出作業、)はこれを実施するにあたり、いちいち社員の指示を要するものではないのである。なお申請人らは請負化の範囲について会社と関電労組本部間で「計器補助、大工補助、熔接補助、とび補助の四職種を除く」趣旨の取り決めがなされたというが、そのような取り決めは存しない。以上のとおりだから本件請負化実施につき関電労組との間の取り決めに違反した事実はない。

(ロ)  職業安定法に違反しないこと。

職業安定法第四四条は労働者供給事業制度の存在が封建的な身分関係に基いて労働者を支配し、とかく労働の中間搾取を行ない、かつ強制労働という弊害を伴い労働者の基本的人権を侵害する危険が濃厚であつたためかかる反民主的な雇用慣習を排除しようというものである。しかし、関電興業とその従業員との間には所謂個別的労働関係においては勿論のこと、集団的労働関係においても、関電興業労働組合が結成されているほか、近代的、民主的労働関係が確立されており、中間搾取、労働強制の弊はいささかも存在せず、広く雇用形態の民主化が行われているのであり、その事業内容から見ても関電興業の営業種目は多数に及び殊に送電線、地中配電線建設工事、変電所建設工事、火力発電所補修工事等においては全国的にも一流の業者として業界に広く認められている専門的工事請負業者であり、かつ、発送変電部門の建設、補修請負工事を組織的、総合的かつ包括的に行つている。このように関電興業は単に肉体的な労働力を提供するものではないから前記法条の禁止する労働供給事業を営むものでないことは明らかである。

なお、本件請負の実施実態も、職業安定法施行規則第四条第一項各号の規定のすべてに適合しており、申請人らのいうような二号及び四号の違反はない。すなわち、二号「作業に従事する労働者を指揮監督するものであること」についてみるに、本件請負工事の作業上の指揮監督については直接的には関電興業の各出張所長は各作業員を総括的に管理監督し、監督(員)は各作業場を巡回して作業員を指揮監督し、班長及び副班長は各班所属の作業員を直接指揮監督しているものであつて作業上の指揮監督体制は充分備つているし(なお、夜間作業も行われる重油バーナーチップ洗滌作業、コールシュート突き作業及び灰出作業については関電興業では交替勤務制により実施しているが、宿直に必ず班長又は副班長なる責任者をつけているので昼夜とも所属作業員の指揮監督は充分行われている。)、一方、会社は社員が関電興業の作業員に対し直接指揮監督を加えるとみられるような行為をなすことはこれを厳禁しており、注文上の指図の必要な場合には必ず関電興業の責任者を通じて行うことにしている。(申請人らの指摘する甲第一九号証は尼東発電所の関係課で試案として作成したもので実際に関電興業に手交されたものではない。関電興業に手交された仕様書は乙第八号証の一ないし六である。)次いで四号「自ら提供する機械、設備、器材(業務上必要なる簡易な工具を除く)若くはその作業に必要な材料資材を使用し又は企画もしくは専門的な技術もしくは専門的な経験を必要とする作業を行うものであつて、単に肉体内な労働力を提供するものでないこと」について見るに、関電興業は一般に請負工事の実施につき必要な機械、設備、器材、材料を所有使用し、専門的な知識、経験を有する技能者を従業員として多数かかえ、殊に発送変電部門の建設、補修請負工事における企画、専門的な技術もしくは専門的な経験については事業実績からみてその優れていることは広く業界に認められているところであるが、本件の請負工事の各作業の稼動力となる機械器具、各作業に必要な材料、資材はすべて関電興業が所有しているもの、ないし関電興業が他から購入したものを使用している。例えば、コールシュート突き作業については関電興業が所有する、右作業に独特の鉄製の工具を使用しており其の工具は長いものは三米に及び短いものでも一、五米あつて、しかも単純な棒状ではなくて其の先端は石炭のつまる個所、状態に即応して様々の形があり、どんな種類の請負作業にも共通的に使用されるもの、どこでも市販されているもの、でないと共に個々の労働者が所持携行しうる「簡易な工具」ではないのである。

(ハ)  本件請負化の業務上の合理性について。

会社は公益事業としての社会的使命を全うするため発足以来、経営全般にわたる合理化施策を強力に推進しており、常用夫従事業務についても処理方法の改善、業務の簡素化、合理化にも意を用い、その結果常用夫の人員について逐年減少の傾向をたどつていた。本件の常用夫業務の一部請負化も右合理化施策の一環として行われたものであるが、右請負化はその実績に徴しても、次のとおり経営の合理化に寄与している。すなわち、(1)専門的工事請負業者である関電興業が従来から請負つていた火力発電所保修工事等の各種請負工事における設備、工具、技術又は技能を直接間接に本件請負化業務にも活用利用でき、作業員は請負契約所定の仕事にのみ専念でき、かつ、後記の如く労働条件その他の待遇が改善されたことと相俟つて、労働意慾が向上し、したがつて本件請負化業務(従前の常用夫業務)の質が向上した。(2)本件請負化実施にともない当然、会社業務の範囲が縮少され、常用夫の本来従事すべき業務範囲の縮少により常用夫職種の明確化が推進されたほか、社員の従事すべき業務の責任、権限が一層明確になり、かつ、社員としての本来業務に専念させることが容易になつた。その他、人夫調達、監督業務等人夫関係業務の量が減少しその結果他業務の充実をはかることができた。次に、関電興業へ移行した常用夫の地位についてみてもその労働条件その他の待遇は従前に比し著しく向上している。すなわち、(1)従来と異り、期間の定めのない雇用契約が締結され停年(五五歳)まで引続き雇用されることになつたため地位は安定した。(2)従来と異り、通勤費が全額支給され、給与、賞与等賃金が増加した。(3)能力経験に応じ班長、副班長という「役付」に登用され職務手当を支給される機会を持つようになつた。

(ニ)  以上のとおりであるから申請人らの解雇権濫用の主張は理由がない。

申請人ら主張の「第四、申請人らの賃金」について、

申請人ら主張事実のうち、本件退職当時における日給が申請人鈴木は四五五円、同松本は四五〇円、同遠藤は三九五円であつたことは認める。

申請人ら主張の「第五、仮処分の必要性」について、

申請人ら主張事実のうち、収入、家族、損害の点は知らない。

(疏明省略)

理由

第一、当事者関係

会社が発電及び電力供給事業を営み従業員二万数千名を有する株式会社にして、尼崎市内においては尼一、尼二、及び尼東の三発電所を有していること、申請人鈴木が昭和二六年一二月に尼二発電所の渇水夫として会社に雇われ、次いで昭和二七年四月には同発電所の常用夫として雇われて以来引続き勤務し昭和三六年三月当時は同発電所運転課所属の常用夫であつたこと、申請人松本が昭和二六年一二月尼二発電所の渇水夫として会社に雇われ、次いで同発電所の常用夫となつて引続き勤務し昭和三六年三月当時は同発電所保修課所属の常用夫であつたこと及び申請人遠藤が昭和三二年九月尼東発電所の常用夫として会社に雇われ昭和三六年三月当時は同発電所運転課所属の常用夫として勤務していたことは当事者間に争いがない。

第二、常用夫の雇傭契約上の地位並びに其の業務内容

成立に争いのない乙第一号証、乙第二号証の一ないし五、証人前田義里、林晃道(第二回)、西川勇、鶴善次郎(第一回)、鈴木福司、山内茂、東厳、花島文雄、奥山長男(第一、二回)の各証言並びに申請人鈴木正雄(第一、二回)、松本忠富、遠藤岩雄の各本人訊問の結果を総合すると次の各事実が疏明される。

(一)  会社の従業員には社員、試雇、教習生、嘱託及び直用人夫の種別があり、直用人夫は更に常用夫、臨時人夫及び建設人夫に類別されていること。

(二)  そのうち社員は発電、変電、送電及び配電という複雑多岐にわたる会社の本来的業務を行うことを立前として雇傭されたもので、其の業務は比較的に高度の技術ないし経験を必要とするところから会社としては社員には逐次、高度の業務を修熟させ長期に亘つて会社のために貢献することを期待しなければならないとの観点から、定期的に採用試験をし、其の雇傭に当つては期間の定めなくこれを雇い、その代り満五五才の停年制を設け以て恒常的な雇傭関係を形成し、かつ、賃金も月給制をとり雇傭後も必用に応じて種々の教育訓練が行われていること。

(三)  これに対し常用夫は前記本来的な業務にとつて附随的な雑役的作業ないし社員の補助的作業を行うものとの立前のもとに雇傭されたもので、勿論、臨時人夫のように当初から定まつた短期間の臨時の仕事のために雇われるものではないけれども、その立前とする作業の内容が社員に要求されるような技術ないし経験を必ずしも必要とせず、かつ、時と処とに応じて広く代替性を有し特定人が長期に亘つて会社のために貢献することを特に期待する必要がないとの観点と、会社の業務処理方法の変更による業務量の変動に対処するためとから、原則として六ケ月の期間を定めてこれを雇い、ただ会社の業務処理方法の変更等による業務量の変動が特にない限り右の期間満了後も更に六ケ月の期間を定めて雇傭契約を更新するのを立前とし、その手続は期間満了の都度「このたび貴社に雇傭せられますについては、下記の事項を了承のうえ誠実に勤務いたします」と頭書し、下記の事項として「職種、雇傭期間、労働条件」を明記した誓約書を提出させたうえ引続き勤務させているものであり、したがつて社員の場合のように停年制はなく賃金も日給制をとり雇傭後も特別の教育訓練を行わず、また、就業についても直用人夫についてだけ適用されるものとして別に「直用人夫就業規則」が制定されていること。

(四)  常用夫の作業内容を其の職種から大別すると掃除夫、連絡夫、浴場夫、賄夫、事務所雑役夫の如く生産工程部門外の作業に従事する者と現場雑役夫、灰出夫、計器補助、大工補助、熔接補助、鳶補助等の如く生産工程部門の作業に従事する者に分類できるところ、昭和三六年三月当時、申請人鈴木、同松本は「現場雑役夫」として、申請人遠藤は「灰出夫」として、いずれも生産工程部門の作業に従事していたこと。

(五)  申請人鈴木が尼二発電所運転課配属の「現場雑役夫」として現実に従事していた主たる作業はコールシュート突き作業、重油バーナーチップ洗滌作業及び石炭計量機後方清掃作業であつたが、このうちコールシュート突き作業とは、微粉炭機からコールシュートを経て汽缶へ微粉炭が自動的に降下する途中において石炭の湿分の高いとき(雨の日など)にコールシュート内に微粉炭がつまつて汽缶への供給が円滑にゆかないことがあり、かくては汽缶の運転に支障をきたす虞があるので適宜巡回してつまつた箇所があるときは所定の特殊鉄製器具でこれを突いて微粉炭の降下を促進する作業であり、微粉炭の汽缶への供給が円滑に行われないときは汽缶運転室のメーターに自動的に表示されメーター監視に従事する社員からの連絡により当該コールシュートのつまつた箇所を突くことがあり、また、当該常用夫が居合せないときは右の社員自らコールシュート突きをすることも時にはあるが、もともと社員からの連絡がなくてもコールシュートのつまつたことは巡回していて容易に発見でき、また、コールシュート突き自体も社員の指示をまつまでもなく少し慣れれば特別の技能を要しないので比較的簡易に出来る作業であること。また、重油バーナーチップ洗滌作業とは、重油が汽缶の中で噴霧状態になつて円滑に燃焼するように重油バーナーの先端に取付けてあるチップを時々取りはずし、これを洗い油で洗滌する作業であり、石炭計量機後方清掃作業とは文字どおり掃除することであり、いずれも社員の指示を要せず特別の技能ないし経験がなくてもできる作業であること。一方、尼二発電所の運転課所属の社員の担当業務は汽缶及び補機関係機器の操作、メーター監視、記録、点検等の汽缶運転作業であり、時には社員が常用夫の作業を手伝い或は常用夫が汽缶及び機器の操作、メーター監視作業以外の社員の業務を手伝うこともあつたが、それは本来の担当業務としてではなく臨時的なものであつたこと。

(六)  申請人松本が尼二発電所保修課配属の「現場雑役夫」として現実に従事していた作業は汽缶補機関係の修理の補助作業であつたところ、元来、汽缶及び補機関係機器の修理のうちで特殊の技術や多量の資材を必要とするものは専門業者へ請負に出され、手持資材を用いて比較的簡単にできるものだけを保修課で行う立前がとられていたから、申請人松本らの作業は保修課でなす修理のために当該機器を取りはずしたり、修理用資材を運搬したり修理作業に必要な足場を組立てたり或は修理の完了した機器を取り付けたりして所属社員のなす修理作業を補助する仕事であつたこと。一方、保修課所属社員は請負に出すべき修理工事に関しての修理計画、点検、検収等の管理業務並びに保修課自体で行う修理作業を行うものであるところ、ただ現実には社員も常用夫の行うべき右の諸作業を手伝つて自ら行う場合があり又常用夫も社員の行うべき右修理作業等を手伝うことも屡々あつて其の外観から見るときは社員と常用夫とが共同作業をしているような現象を呈することが多いけれども、社員は右管理業務を行うなど保修業務の処理範囲が広く、かつ、修理作業自体についてもその責任を有する点において常用夫とは異るから、いづれにしても常用夫の作業は社員の補助作業であり、かつ、その作業自体は一々社員の指揮をうけなくても、又特別の技能ないし経験がなくても出来る単純な仕事であること。

(七)  申請人遠藤が尼東発電所配属の「灰出夫」として従事していた作業は流灰作業であるところ、元来、粉炭の燃焼によつて生じた炭滓(灰)はアッシュホッパーの構造上自然に流灰溝に落下する仕掛けになつてはいるが石炭の不完全燃焼などの場合に塊状の灰がアッシュホッパー下端の灰出口や流灰溝につまつて自然に流出しないことがあり、この状態が長く続くと汽缶の運転に支障があるので随時巡回してつまつていることを発見したときは所定の特殊鉄製器具で炭滓を清掃除去して流灰溝に流込む作業が右にいう流灰作業であること。なお、右作業を円滑に行うために流灰用送水ポンプを操作する社員に水流を強くするよう連絡したり、時には社員自身が常用夫の行う流灰作業を手伝うこともあつたほか、逆に申請人遠藤が流灰作業の外に油番の仕事を手伝うこともあつたが其の本来の担当業務である流灰作業は社員の行う汽缶、機器の操作、メーター監視、記録、点検等の汽缶運転作業やコールシュート突き、重油バーナーチップ洗滌(これらは尼東発電所では尼二発電所と異り従前から社員業務とされていた。)等の補助的作業に比して附随的な作業であり、その作業自体は一々社員の指揮を要せず、又特別の技能ないし経験がなくても少し慣れれば出来る比較的簡易な作業であること。また、

(八)  生産工程部門で働いていた常用夫のうち申請人らと違つた作業に従事していた常用夫の仕事の内容も総じて云へば社員業務に対して補助的ないし附随的な作業であり、かつ、その作業の実施に際し一々社員の指揮によらなければできないようなものではなく特別の技能、経験をもちいずして自己の判断で出来る比較的簡易な作業であつたこと。

以上の事実が疏明せられ、証人花島文雄、奥山長男(第一回)の証言や申請人ら各本人訊問の結果のうち右認定に抵触する部分は採り難く他に右認定を覆すに足る資料はない。

第三、雇傭関係終了に関する意思表示

成立に争いのない乙第三号証の一ないし六によれば、会社は申請人らに対しそれぞれ「昭和三六年三月三一日をもつて直用人夫就業規則第三五条第二号及び第五号に基いて同日限りであなたに退職していただきますので通知いたします」旨記載した同年同月二九日付の内容証明郵便を発送し右日付頃それぞれ申請人らに到達させたことが疏明せられるところ、申請人らはこれを以て解雇の意思表示であると主張し被申請人は雇傭関係は昭和三六年三月三一日限り期間満了により消滅すべきものであるから右は更新拒絶の通知である旨主張するから、先づこの点につき検討する。

会社は常用夫を採用するに際し原則として六ケ月の雇傭期間を定めてこれを雇い、ただ業務処理方法の変更等による業務量の変動が特にない限り期間満了するも更に六ケ月の期間を定めて雇傭契約を更新する立前をとり、右更新に際しては其の都度、「職種、雇傭期間、労働条件」を明記した誓約書を提出させて引続き勤務させていたことは前に認定したところであり、前掲乙第二号証の一ないし五、証人前田義里、西川勇、鶴善次郎(第一回)の各証言及び申請人ら各本人訊問の結果によれば、申請人鈴木は昭和二七年に、申請人松本は昭和二九年に、申請人遠藤は昭和三二年に、それぞれ常用夫として雇傭されて以来六ケ月の雇傭期間の満了の都度それぞれ右期間の更新が繰返されて引続き勤務してきたもので期間満了の際にはその都度前記「誓約書」を提出していたものの、これも期間満了後引続き勤務して数日後に始めて会社からその提出を求められることが多く、したがつて申請人ら常用夫は期間満了前に会社から何等の通告のない以上、期間満了によつて雇傭関係が当然終了するものではなくて期間は更新されて引続き雇傭されるものとの認識を持つていたこと、会社としても前に見たように業務量の変動なき限り契約を更新する立前をとり其の場合に期間満了前には何等の意思表示もせず又常に期間満了と同時に誓約書を提出させるという厳格な手続はとらずに引続き勤務中の常用夫から数日後に誓約書を徴するという風に誓約書の提出を極く形式的なものとして処理していたし、一方期間満了によつて雇傭関係を終了させ契約を更新しない場合にも当然終了ということで何等の処置をとらないのではなくて予め退職願を提出させるという方法をとつていたこと、また常用夫は社員の補助的ないし附随的な作業をするものとは云へ、臨時人夫のように短期間の臨時的な仕事のために雇傭されたものではなく会社の業務処理方法に変更なき限りその仕事自体は会社にとつて恒常的なものであること、以上の各事実が疏明される。以上の各事実を彼此総合すると会社と申請人ら常用夫との雇傭契約は期間の定めのある契約ではあるが期間満了前に会社から更新拒絶の意思表示をしない限り当然に契約が従前と同一の労働条件(期間も前と同じ)で更新される趣旨の契約であつたものと解するのが相当である。尤も、前示各疏明によれば、申請人らが最後に提出した誓約書に明記された雇傭期間は、申請人松本については昭和三五年一〇月一日から昭和三六年三月三一日までの六ケ月間となつていたが、申請人鈴木及び遠藤については両名とも昭和三五年九月一日より昭和三六年二月末日までの六ケ月間となつていたところ、会社は同人等の従事していた常用夫業務を昭和三六年四月一日付を以て請負化すべく計画していたため同日以降は右業務が会社業務でなくなるとの予定のもとに同年三月に右両名から(申請人鈴木からは三月七日に、申請人遠藤からは三月八日に)雇傭期間を昭和三六年三月一日から同年三月三一日までとする「誓約書」を提出させて引続き勤務させていたことが疏明されるから、申請人鈴木及び遠藤については一度更新された六ケ月の契約期間が右誓約書の提出によつて合意により一ケ月(昭和三六年三月三一日まで)に短縮されたものと見ざるを得ないけれども、後に認定する如く右誓約書提出当時に右両名の業務が四月一日付を以て請負化されることは未だ確定していたわけでなく、また右両名が会社から何等の意思表示をまたず一ケ月の期間満了によつて当然退職となるものとの認識のもとに右誓約書を提出したものとも認められないから、雇傭期間を一ケ月間とする右誓約書が提出されたからといつて、期間満了前に会社から更新拒絶の意思表示をしない限り当然に契約が更新されるとの従来の契約の趣旨が変更されたと認めることはできない。

してみると会社が申請人らに対して雇傭期間満了前の昭和三六年三月二九日付で発した前記内容証明郵便はこれを以て右契約の趣旨に基く更新拒絶の意思表示であると認めるのが相当である。

第四、更新拒絶の意思表示の効力

右に見てきたところからすれば、昭和三六年四月一日以降申請人らと会社との雇傭契約関係が消滅したか否かは結局前記の更新拒絶の意思表示が有効になされたか否かにかかるものといわなければならないから、以下右意思表示の有効か無効かにつき検討する。

〔一〕  労働協約との関係

会社と関電労組との間に締結された労働協約第三条に右協約の適用除外者として〈1〉号から〈6〉号までにこれを列挙しその〈6〉号には「その他会社と組合が協議して定めた者」と規定され、右協約中の「覚書」には右の「会社と組合が協議して定めた者」には「(イ)寮の管理人その他であつて、現に社員でないもの」を含むものとする、と定められ、さらに右協約の「解明」の中には右の「現に社員でないもの」とは「特定の業務に期間を定めて雇い入れる者及び特別の業務を必要期間委嘱する者」等である、と記載されていることは当事者間に争いのないところ、成立に争いのない乙第一〇号証の一によれば右「解明」は会社と関電労組間で慎重審議のうえ完成し作成した逐条ごとの労働協約の解説であることが認められること及び既に認定したように申請人らの如く生産工程部門の作業に従事する常用夫も原則として六カ月の期間を定めて雇われ、かつ、その業務につき「現場雑役夫」「灰出夫」といつたような特定の職種を定められていることから見ると、申請人ら常用夫は右「解明」にいう「特定の業務に期間を定めて雇い入れる者」に該当するものと解するのが相当であるから、結局、申請人らは労働協約の適用除外者であるといわねばならない。尤も、すでに見たように現実の作業では屡々申請人らが社員の業務を手伝うのが事実であるけれども、それは申請人らの本来の担当業務ではないのであるから、右の事実を以て申請人らを右にいう「特定の業務」に雇い入れる者でないとする根拠とはなしがたい。

また、申請人ら生産工程部門で働いていた常用夫と雖もその担当の業務は社員の業務に比して特別の技術ないし経験を要しない単純な、附随的ないし補助的な作業であるのみならず、雇傭期間、賃金体系、教育訓練等の点で社員とは異る立前がとられ、かつ、社員とは別に適用されるものとして特に「直用人夫就業規則」が制定されていることは前に認定したとおりであり、さらに、後に認定する如く本件更新拒絶の意思表示がなされる前から関電労組とは別に常用夫だけによる常用労組が結成されていて申請人らはその組合員であつたのであるから、これらの点から見ると申請人らを労働協約の適用をうける社員と「同種の労働者」(労働組合法第一七条所定)として右法条を適用することはできないものと解する。

以上のように申請人らには会社と関電労組間の労働協約の効力は及ばないのであるから、本件更新拒絶の意思表示を申請人ら主張の協約第一〇条に依拠してその有効無効を判断する余地はない。

〔二〕  直用人夫就業規則との関係

直用人夫就業規則第三五条に「直用人夫が次の各号の一に該当する場合は退職させる」として、その第二号に「契約期間が満了したとき」、第五号に「会社業務の都合によるとき」とそれぞれ定めていることは争いがないところ、申請人らと会社との間の雇傭契約は契約期間満了前に会社から更新拒絶の意思表示をしない限り期間の点も含めて従前と同一の条件で契約が更新される趣旨のものではあるが、期間の定めのある契約であることに変りのないことは前に認定したとおりであるから、会社としては期間満了前に更新拒絶の意思表示をして以て契約を更新せしめずして雇傭関係を消滅せしめる(すなわち、退職させる)ことを得ることは契約の趣旨に徴して明らかであり、したがつて右の第三五条第二号はこの当然の事理を表わしたものと解すべきである。してみると、申請人らの契約期間がいずれも昭和三六年三月三一日を以て満了したことは前に認定したとおりであるから会社が期間満了前の同年同月二九日付で更新拒絶の意思表示をなしたこと(すなわち、期間満了と同時に退職させる旨の意思表示をなしたこと)を以て申請人らのいうように右規則第三五条の適用を誤つたものと解することはできない。

〔三〕  労働組合法第七条第一号、第三号との関係

(イ)  常用夫業務の請負化実施に至るまでの経過

成立に争いのない甲第一号証、第十一ないし第十七号証、第二十五号証の一ないし四、第二十七号証の一ないし十二、証人花島文雄、石田栄一(第一回)、村松一(第一回)、藤井新造、高馬士郎(第一回)、前田義里、林晃道(第一、二回)、西川勇、鶴善次郎(第一回)、鈴木福司、山内茂の各証言及び申請人ら各本人訊問の結果を綜合すると、

(1) 関電労組(常用夫はその組合員ではない)など各電力会社の労働組合で組織している電労連では昭和三四年初から「社員外従業員に関する専門委員会」を設けて、各会社に共通の常用夫問題について毎年検討を重ね、常用夫の労働条件改善のために常用夫を組織化ないし社員化すべきであるとの基本方針を確認し、これに応じて関電労組でも常用夫問題を取り上げ昭和三四年一一月二五日会社に対し月給制、退職金制度の確立その他一〇項目にわたる常用夫の待遇改善に関する要求を提示し(右日時、要求提示の事実は争いない)、その後数次にわたる交渉の結果昭和三五年六月にいたり、常用夫に関する今次の要求については日給改定(三〇円増額)をもつて一応整理したものとし、常用夫の基本的問題(身分保障)に関連する具体的問題については会社において更に検討のうえ結論あり次第話合うものとするという事で一応の解決を見た。これより先の同年五月の関電労組定時大会では右諸要求についての会社との交渉が順調に進展していなかつたところから、今後は常用夫が組織化して自ら労働条件の改善につき会社と交渉し関電労組は全面的にこれを支持するようにすべきであるとの方針が決議されていたが、その後関電労組による常用夫の組織化の活動ははかばかしくは進まなかつた。

(2) 一方、常用夫の員数は昭和三〇年以降漸減の傾向をたどつていたが、会社は昭和三五年初、完成の大阪火力発電所でテストケースとして実施した常用夫業務の一部請負化の結果が良好であつたところから、昭和三五年春頃大阪火力発電所以外の他の発電所(尼崎の三発電所を含む)についても常用夫業務を一部請負化すべく考え内々に各発電所について常用夫の作業内容等を詳細に下調査し、かつ、その準備を進めた結果昭和三六年四月一日以降右請負化を実施するとの基本方針が定つたので、常用夫の労働条件改善に関する関電労組との前記交渉での約束に鑑み、昭和三六年二月一八日に至り始めて関電労組に対し、兵庫火力事務所管内(尼崎の三発電所はその管内にある。)及び大阪火力事務所管内の常用夫業務のうち小使、倉庫夫、寮賄夫等の業務を除き主として現場雑役業務、清掃業務を関電興業へ請負わせる、右業務に従事している常用夫は円満に退職してもらい改めて関電興業への就職を世話する、右以外の常用夫の労働条件については請負化後に考慮する旨の具体的提案を行い、これに対し関電労組は初め反対したが二月二四日、三月一四日、三月一六日と交渉を続けその間右請負化は職業安定法に抵触しないかどうか、日常業務の運行から見て請負に適するかどうか等の点から種々論議された結果、三月一六日に次のような条件即ち、社員の直接的補助業務に従事しその指揮命令に従う場合は請負化より除外しその具体的範囲については下部(各発電所とこれに対応する関電労組支部の意)で協議する、関電興業への請負移管の実施期日は昭和三六年四月一日付とする。解雇慰労金として右請負移管に協力し関電興業へ移行(就職)する者には日給の一〇〇日分を支給し、移行しない者には内規どおり二〇日ないし四〇日分を支給する、との条件のもとに関電労組は会社の提案を承諾し会社も右条件を了承して請負化に関する交渉が成立した。次いで右の取り決めに基き同年三月一八日以降各発電所と関電労組各支部との間で請負から除外すべき具体的業務範囲について協議がつづけられた結果同年三月二九日に至つて会社が請負化対象にしている業務(申請人らの業務を含む)中には「社員の直接的補助業務に従事しその指揮命令に従う」ものはないとの意見の一致を見たので右一致したところに従つて常用夫業務の関電興業への請負移管が同年四月一日付で実施された。

(3) また、会社は関電労組との前記請負化交渉の途中の昭和三六年三月一日に尼一、尼二、尼東各発電所で請負化対象業務に従事している常用夫に対し請負化の趣旨、事情を説明してその協力を求めたところ、二月一八日以降の会社、関電労組間の請負化交渉を聞知して請負化に反対して常用労組結成の機運の高まつていた尼二及び尼東発電所では会社の右説明後、即日、常用夫約四〇名を以て常用労組が結成されて申請人鈴木がその執行委員長、申請人遠藤がその副執行委員長に就任し(常用労組結成並びに役員就任の点は争いない)、三月五日会社に対し雇傭継続の件のほか四項目の要求を掲げて団体交渉の申入をなし三月一三日、三月二〇日、三月二七日の三回に亘つて団体交渉をした。右の第一回交渉において常用労組は請負化反対を主張したが会社側の容れるところとならず、その後三月一六日には会社と関電労組間に前記の如く請負化に関する交渉が成立したため常用労組は関電労組頼むに足らずとして三月一九日に総評尼崎合同労組に加入し(そのときは組合員数は二〇数名に減少していた。)、右合同労組関西電力常用職員分会となり、申請人鈴木は分会長、申請人遠藤は副分会長、申請人松本は執行委員に就任して(合同労組への加入、役員就任の事実は争いない)第二回交渉に臨んだが、会社側はすでに関電労組との間に請負化交渉が成立していたため請負化に関する基本方針を譲らなかつたし、第三回交渉の際には申請人ら三名を除く他の常用夫らは既に会社の勤めに応じて退職届を提出し関電興業への移行(就職)を承諾していたため申請人ら組合役員としては右常用夫らの移行後の労働条件につき会社に要望しただけで交渉を打切るほかなかつた。

(4) 一方、会社は三月一六日に関電労組との交渉が成立して後は右のように常用労組との交渉を持ちながらこれと平行して請負化対象業務に従事している常用夫全員(尼一、尼二、尼東発電所を含む兵庫火力事務所管内の各発電所では合計一〇一名)に対し三月一八日から円満退職並びに関電興業への就職希望の有無を徴し、かつ、これを勧誘した結果三月二二日までに右一〇一名中申請人ら三名を除く九八名が退職を承諾して退職届を提出したうえ関電興業への就職を申出たので関電興業に連絡して三月二七日から二九日までの間にその就職手続を完了させたが、申請人ら三名は会社の勧誘を拒ばみ、円満退職並びに関電興業への移行(就職)を拒否した。かくて同年四月一日付で常用夫業務の関電興業への請負移管が実施され、これにともない就職手続を終えた右常用夫らは同日付を以て関電興業へ就職した。このため申請人らの従来の業務は関電興業の請負業務となり会社の直営業務の範囲外になつたのでこれを理由に会社は申請人らに対し先に認定の如く内容証明郵便をもつて契約の更新拒絶の意思表示をした。

以上の各事実が疏明せられ、右認定を覆すに足る資料はない。

(ロ)  会社の常用労組に対する態度

昭和三二年二月尼東発電所勤務の常用夫のうちの相当数の者が組合を結成し総評尼崎合同労組に加入し賃上要求等を掲げて会社と団体交渉を持つたことがあるが、その後間もなく右組合が解散したことは当事者間に争いなく、また申請人鈴木正雄(第一回)、同遠藤岩雄の各本人訊問の結果によれば昭和三〇年頃尼二発電所で常用夫による懇親会が結成されたが間もなく解散し、昭和三四年初頃尼東発電所で常用夫による組合結成の準備がなされていたが結局結成に至らなかつたとの事実が疏明されると同時に右の組合、懇親会の解散等については会社側の何等かの作為がこれに介入したのではないかと疑われる。

また前に認定したように、昭和三六年三月一日請負化反対を主張して申請人らにより常用労組が結成されて後、雇傭継続の要求等を掲げて団体交渉を申入れた常用労組に対し会社がこれと団体交渉を持ちながら、三月一八日以降はこれと平行して請負化対象業務に従事する個々の常用夫等(その内、当初約四〇名は常用労組の組合員であつた。)に対し個別的に退職並に関電興業への就職を勧誘し退職届を提出させたものであるところ、雇傭継続の問題について組合と団体交渉が継続中にその組合員に対して個別的に退職を勧誘することは組合の運営に対する介入と見られる余地の多分にある行為といわなければならないが、一方前掲甲第一七号証によれば雇傭継続を唱えて常用労組が結成されはしたものの個々の組合員の中には出来るだけ多くの解雇慰労金を獲得したいとの強い要望の者もあり、またその真意は関電労組の会社に対する交渉に期待をかけている者も多く、必ずしも個々の組合員の意向が組織的に集約されているとはいえない面が多分にあつたこと及びそのためか関電労組と会社間での三月一六日の請負化交渉妥結により一〇〇日分の解雇慰労金を獲得したことで組合結成の目的を達したとして常用労組を脱退した者の多いことが疏明されるから、これらの事実を考え合すと、申請人ら三名以外の組合員たる常用夫が退職届を出し関電興業に就職したことについては会社が常用労組と交渉継続中にもかかわらず個別的に退職並に移行(関電興業への就職)の勧誘をしたことがそれほど重大な原因になつているとは断じがたいといわねばならない。いいかえると、会社の勧誘が常用労組との交渉中になされたると交渉終了後になされたるとによりそれほど異つた結果が出たとは思へない。次に、常用労組結成後も会社は従前からの関電労組との請負化問題に関する団体交渉を、常用労組との交渉と平行して行い、三月一六日に協定が妥結したことは前に見たとおりであるが、請負化は兵庫、大阪両火力事務所管内の対象業務に従事する常用夫全員に関する事項であつて独り常用労組の組合員のみに関する問題ではないから、申請人ら主張の如く会社が関電労組と交渉し協定を結んだことを非難するのは当らない。

さらに、申請人らは三月一日の常用労組結成大会に尼一発電所所属の常用夫が参加するのを会社が阻止したと主張するが、会社がその参加を故意に阻止した事実はこれを認めるに足る資料がない。

(ハ)  請負化業務の範囲

三月一六日の会社、関電労組間の協定で請負化業務の範囲について「社員の直接的補助業務に従事しその指揮命令に従う場合は請負化より除外しその具体的範囲については下部で協議する」と定められ、右取り決めに従い三月一八日以降、所定の下部機関である各発電所とこれに対応する関電労組各支部との間で右の具体的範囲について協議がつづけられた結果三月二九日に至つて、会社が請負化対象にしている常用夫業務(申請人らの業務を含む)中には「社員の直接的補助業務に従事しその指揮命令に従う」ものはないとの意見の一致を見たので右一致したところに従つて関電興業へ請負移管されたものであることは前に認定したところである。ところで前掲甲第十七号証によれば右の協定に際して関電労組は会社提案の請負化業務のうち計測補助、鳶補助、大工補助、熔接補助の四職種の常用夫業務は請負化から除外すべきであると主張したが結局、各発電所ごとの具体的な事情を考慮して「社員の直接的補助業務に従事しその指揮命令に従う場合を除く」という抽象的な表現をし、その具体的な範囲の決定はこれを各発電所の特殊性を考慮して各発電所と関電労組各支部との交渉に一任したものであることが疏明されるから、右四職種のうち一部の者を除き大部分が請負に移管された(このことは証人西川勇の証言、申請人ら各本人訊問の結果、うかがえる)からといつて右は決定を一任された発電所、関電労組支部の協議に基くものである以上、申請人らのいうように前記協定違反を云々することはできない。このことは、申請人らの従事していた業務についても云えることである。すなわち、常用夫の業務内容について冒頭に認定した事実から見ると申請人らの本来の担当業務を以て「社員の直接的補助業務に従事しその指揮命令に従うもの」とは必ずしも断じがたいのみならず、この業務についても右協定に従い発電所、関電労組支部間の協議に基いて請負移管されたものであるから、協定違反を云々する理由はない。

(ニ)  職業安定法との関係

職業安定法第四四条は労働者供給事業を禁じ同法施行規則第四条は請負契約にもとずく場合にもそれが右にいう労働者供給事業とならないための要件を第一ないし第四号に規定し、その第二号には「作業に従事する労働者を指揮監督するものであること」第四号には「自ら提供する機械、設備、器材(業務上必要なる簡易な工具を除く)若くはその作業に必要な材料資材を使用し又は企画もしくは専門的な技術もしくは専門的な経験を必要とする作業を行うものであつて単に肉体的な労働力を提供するものでないこと」と明記している。ところで、証人西川勇、鶴善次郎(第一回)、渡辺吉之助(第一、二回)の各証言によれば、常用夫業務が関電興業へ請負移管され、かつ、これにともない該当業務に従事していた常用夫が会社を退職のうえ作業員として関電興業へ就職したうえ、右作業員等の大部分は常用夫当時に従事していたと同一職場で同一内容の作業に従事しているとはいえ、右作業は先づ会社から関電興業(請負人)の社員たる監督員に対し伝票をもつて作業内容が指示され、作業員は右監督員の指揮監督を受けて請負業務の内容である作業に従事する、夜間作業の場合には作業員のうちの責任者(班長)が右監督員の職務を代行する、というシステムのもとに実施されていて、被申請会社の社員が直接に作業員に指図をすることは禁じられていること及び右作業員らが作業をするに際し使用する特殊の器具類(例えば、コールシュート突き作業流灰作業に使用する特殊の鉄製器具等)は従前、常用夫当時に使用していたものを請負移管と同時に会社から関電興業に譲渡され関電興業の所有となつたものを使用していることがそれぞれ疏明され、証人花島文雄、奥山民男(第二回)の証言中、右認定に反する部分は採用しがたく、また成立に争いのない甲第十九号証は証人村松一の証言(第一、二回)によれば、尼東発電所と関電労組尼東支部との間で前に認定した請負化除外業務の具体的範囲についての協議をした際に発電所側から提示された請負業務の実施に関する仕様書にして、発電所側は請負化の暁には右仕様書記載のような方法で具体的に実施する旨説明し、右説明によれば関電興業の作業員は被申請会社の社員の指揮をうけて作業するというようなことが仕様書の内容になつていたことが窺われるけれども、証人鶴善次郎の証言(第二回)によれば右仕様書は尼東発電所で試案として作成され、かつ、右のようにこれを基いて関電労組尼東支部に説明されたものではあるが、その後これを兵庫火力事務所に提出したところ同事務所ではその内容を修正のうえ会社本店へ提出したから右仕様書はそのままでは関電興業に手交されておらず、したがつて右仕様書の内容と請負業務の具体的実施態様とは異るものであることが認められるから、甲第十九号証の存在を以ては前記認定を覆すには足らず、他に右認定を左右すべき資料はない。してみると、関電興業の行う右請負業務の実施は申請人らの主張するように職業安定法施行規則第四条第二号及び第四号所定の要件を欠くものとは断じ難い。勿論、関電興業の作業員と会社社員とは同一場所で作業している以上、事実上は互に連絡し合うことのあるのは想像しえられるところではあるが、そのために関電興業の監督員ないし作業責任者(班長)の作業員に対する指揮監督が排除されていると認めることはできない。

(ホ)  請負化の業務上の合理性の有無と移行常用夫の労働条件

証人前田義里、林晃道(第二回)の証言によれば、会社は電気事業という公益事業の見地から従前より食堂、売店、理髪店経営の請負化、輸送部門の請負化、倉庫業務の集中化等による一連の合理化施策を実施し、これにともない常用夫の人員は逐年減少の傾向をたどつていたところ、昭和三五年の大阪火力発電所における常用夫業務の一部請負化を契機に兵庫火力事務所及び大阪火力事務所管内の発電所の生産工程部門の常用夫業務の請負化を実施しその一環として兵庫火力事務所管内の尼一、尼二、尼東の三発電所でも前に見たように四月一日付で常用夫業務の請負化が行われたこと、右請負化によりそれだけ会社業務が縮少し人員も減少したし又常用夫業務が関電興業の請負業務範囲に入つたため社員が本来の業務(会社業務)に専念できる立前になつたため会社としては人事管理、業務管理の面で従前に比しその管理が容易になつたことが疏明される。しかしながら、証人高馬士郎の証言(第一回)によれば、常用夫業務が請負化された結果、社員が指揮系統の別な関電興業の作業員に対し伝票によらず直接には作業上の指示が与えられないため尼二発電所では職場によつては社員が本来の業務以外に右の作業やその他雑役的な仕事をしなければならない不便も出ておることが疏明されるほか、請負移行前も同一職場の社員と常用夫は本来の担当業務のほかに相互に作業を手伝い合うことが屡々であつたことは前に見てきたところで元々同じ職場に居て発電という生産工程部門に所属している限りそれが社員の本来の業務にとつて補助的ないし附随的な作業であろうとも常用夫と社員とは互に連絡し合いながら作業をするのが自然であると考えられるところから見れば、作業の現実の実施面に関する限り請負化により作業能率の向上(合理化)が実現したとは思えない。

ただ、右の不便は全職場にわたるものとは認められないし(証人村松一の第三回証言参照)また、関電興業の監督員ないし作業責任者(班長)を通じて作業員に指図を与え或は相互に意思の疏通を図るよう努力することによつて大部分解消しうる事柄であるとも考えられるから、本件請負化はこれを全体から眺めるときは作業実施につき一の支障を与えたと判断することは早計である。

次に、証人渡辺吉之助の証言(第一、二回)によれば関電興業における従業員構成は職員、嘱託、臨時雇、常用人夫に別かれ、職員は更に社員、試雇、作業員に種別され、職員したがつて作業員もその雇傭契約には期間の定めがたく、かつ、停年制が設けられているところ、本件移行常用夫らはすべて右の作業員として採用されたものであり、また賞与の支給率の点でも被申請会社の常用夫当時に比して有利になり、能力に応じて社員への登用の途も開かれたことが疏明されるから右の各点では移行常用夫らの労働条件は向上したといえるが、一方前掲乙第一号証、右証言及び右証言によつて成立の真正を認めうる乙第七号証によれば、健康保険における家族療養費の還元率、失業保険の受給期間の点で従前より不利になり、またその他の労働条件について従前よりきびしく規定されているものもあること、関電興業は資本金一千万円で株式の九〇%を被申請会社が持ちその幹部は殆んどが被申請会社の退職者で占められている電気、機械諸設備並に土木建築工事の請負等を営む会社で、被申請会社のいわゆる子会社的立場にあるものであり、かつ、被申請会社を主たる取引先とするものであることが疏明される。右の各事情から見ると移行した常用夫が移行前と後とで労働条件が全体として向上したか低下したかということは一概に判定しえないところであるが、いずれにせよ移行により甚だしい不利益を招来したとは認められない。

(ヘ)  本件更新拒絶の意思表示が不当労働行為とは認められないこと。

電労連で昭和三四年初から各会社に共通の常用夫問題につき検討を始め常用夫を社員化ないし組織化すべきであるとの基本方針を確認し、関電労組でも昭和三四年一一月二五日会社に対し常用夫の待遇改善に関する一〇項目の要求を提示して交渉をつづけ昭和三五年五月の定時大会では常用夫の組織化の方針が決議されていたが、会社はその後の昭和三六年二月一八日に至つて始めて本件の常用夫業務の請負化の方針を外部に表示したこと、それまでにも昭和三〇年ないし昭和三二年に尼二、尼東発電所で常用夫による懇親会或は組合が結成され間もなく解散したことがあるが右解散については会社側の何等かの作為が介入したのではないかとの疑がないでもないこと、昭和三六年三月一日尼二、尼東発電所所属常用夫による常用労組結成後、会社は右常用労組と団体交渉を持ちながら一方でその組合員に個別的に退職並に関電興業への移行を勧誘しそのことが組合運営に対する一種の介入行為とも見られうること、本件請負化は人事管理、業務管理の面は別として作業の現実の実施面では作業能率の向上を結果したとはいえないことはいずれも既に認定したとおりであり、また、証人花島文雄の証言によると会社が請負化の方針を表明した当時には東京電力、北海道電力、九州電力、北陸電力等ではすでに常用夫の組織化が完了していたことが疏明されるから、以上の各事実を考え合すと、会社は常用夫らの組織化(組合結成)するのを恐れそれを未然に防止するために常用夫業務の請負化を決意し急ぎこれを実行したのではないかとの疑がもたれないでもない。しかし一方、会社は以前から食堂、売店、理髪店経営の請負化、輸送部門の請負化、倉庫業務の集中化等による一連の合理化施策を実施し、これにともない昭和三〇年以降常用夫の人員は逐年減少の傾向をたどつていたし、昭和三五年にも大阪火力発電所で常用夫業務を一部請負化したこと、会社は昭和三五年春頃から兵庫火力事務所管内の各発電所につき常用夫の作業内容等を詳細に調査し請負化の可否につき検討を加え、その結果昭和三六年二月一八日に至つて請負化の方針を明かにしたものでその以前の昭和三五年六月の常用夫の待遇改善に関する関電労組の一〇項目の要求についての交渉に際しても常用夫の基本的問題に関しては更に検討したい旨の意向を表明していたこと、及び本件請負化についても右交渉の際の約束にかんがみ二月一八日から三月一六日までの間に数回にわたつて関電労組と団体交渉を持ちその結果、意見の一致をみたので請負化の実施に踏切つたものであり右実施につき申請人らのいうような協定違反、職業安定法違反の事実の認めがたいこともまた前に認定したとおりであるから、これらの各点を考え合すと会社が常用労組の結成を好まなかつたことは認めえても、更に進んでその結成を未然に防止する目的で請負化を提案し、かつ、常用労組結成後は組合を破壊するためにこれを実行したものと断ずるには資料が足りないといわねばならない。してみれば、会社は右請負化を実施するについては請負化対象業務に従事する常用夫に対しては一様に(申請人らに対しても)退職並びに関電興業への就職を勧誘し申請人らを除く常用夫らは右勧誘に従い退職届を提出して会社のあつ旋により関電興業に就職したのに申請人ら三名だけは右勧誘を拒否し退職届を出さなかつたので会社は更新拒絶の意思表示をして雇傭関係を終了させたものであることは前に認定したとおりであるところ、申請人らの担当業務が請負化により会社の処理業務の範囲外となつた以上申請人らとの雇傭関係を終了させることは業務上理由があるものというべきであり、申請人らの組合活動ないし常用労組の存在と右更新拒絶の意思表示との間に因果関係があるものとは認めがたい。けだし、申請人らが他の常用夫らと同様に勧誘に応じて退職届を出したならば会社は関電興業への就職をあつ旋したであろうし、逆に他の常用夫ら(常用労組の組合員たると否とを問わず)でも勧誘を拒否し退職届を出さなかつたら会社が更新拒絶の意思表示をしたであろうことは前記認定の経緯からこれを窺いうるからである。してみると、本件更新拒絶の意思表示を以て不当労働行為と断ずることは困難である。

〔四〕  民法第一条第〔三〕項との関係

前記〔三〕に認定した諸事情を綜合しても本件更新拒絶の意思表示をもつて権利の濫用であるとは認めがたく、他に斯く認むるに足る資料はない。

第五、結論

以上のとおりであるから本件更新拒絶の意思表示は有効であるというべく、したがつて申請人らは昭和三六年三月三一日限り期間満了により被申請会社の従業員たる地位を失つたものと認められる。されば申請人らの本件仮処分申請はいずれも被保全権利を欠くものというべく、かつ、本件は保証を以て疏明に代えるのを相当とする案件とは認めがたいから、その仮処分申請はいずれもこれを棄却することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宮崎福二 荻田健治郎 白石隆)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例